SADOC
SADOC(イタリア語: Sistema Automatico di Direzione delle Operazioni di Combattimento)は、イタリア海軍向けに開発された戦術情報処理装置。
SADOC(イタリア語: Sistema Automatico di Direzione delle Operazioni di Combattimento)は、イタリア海軍向けに開発された戦術情報処理装置。
開発に至る経緯
[編集]イタリア海軍は、アメリカ合衆国の海軍戦術情報システム(NTDS)の情報を得て、1950年代後半より戦術情報処理装置について関心を抱いていた[1]。1958年には、セレニア(Selenia-Industrie Elettroniche Associate SpA)社がSESと称される戦術情報処理装置の設計および艤装の主契約者に指名され、これは後にアンドレア・ドーリア級巡洋艦(1964年就役)に搭載された[1]。セレニア社は、SESと並行して海軍統合防衛システム(SIDA)も生産していたが、両方とも1966年までに生産は終了した[1]。
1961年には軽巡洋艦「ジュゼッペ・ガリバルディ」にテリア艦対空ミサイルを搭載するのに伴ってMk.76 ミサイル射撃指揮装置を導入[2]、また1963年にはターター・システム搭載のインパヴィド級駆逐艦の就役に伴ってMk.74 ミサイル射撃指揮装置を導入しており[3]、これらのSAMシステムの運用経験を蓄積するにつれて、コンピュータを用いた戦術情報処理装置への関心は高まっていった[1]。
1966年、セレニア社は再びイタリア海軍向けの新しい戦術情報処理装置の主契約者に選定された[1]。これがSADOC 1であり、1969年にヘリコプター巡洋艦「ヴィットリオ・ヴェネト」の就役とともに装備化された[1]。
SADOC 1
[編集]SADOC 1は、実質的にNTDSのイタリア向け仕様である[4]。セレニア社によってイタリア海軍の要件に合わせて改良されており、1968年に構想され、1970年に装備化された[4]。
ハードウェアはアメリカ海軍の制式品であり、コンピュータとしてはCP-642B/USQ-20、コンソールとしてはAN/SYA-4を採用した[4]。同時期のアメリカ海軍のミサイル巡洋艦に搭載されたシステムと同様に、武器管制システム(WDS)をメインコンピュータに組み込んでいたものと考えられている[4]。またこのシステムを搭載した艦艇は、CDSによって制御されるアナログ式射撃指揮システム(FCS)を備えていた[4]。
運用者と搭載艦
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イタリア海軍
- アンドレア・ドーリア級巡洋艦 - 後日装備[1]
- ヘリコプター巡洋艦「ヴィットリオ・ヴェネト」[1]
SADOC 2
[編集]NTDSを基に、ハードウェアをイタリア製に切り替えたのがSADOC 2である[1][4]。インパヴィド級駆逐艦の近代化改修に伴い、1975年頃に装備化されたものと見られている[4]。また輸出にも供されており、初期モデルはIPN-10、分散コンピューティングを強化した後期モデルはIPN-20と称される[1][4]。
コンピュータとしてはセレニア社製のCDG-3032コンピュータ(イタリア海軍での呼称はCP-7010または7020)で、32ビットのプロセッサを採用しており、メモリサイズは128キロワード[1]、おおむねアメリカ海軍のAN/UYK-7と同等、あるいはやや高性能であった[4]。コンソールとしては、16インチのブラウン管ディスプレイを垂直に配置した1人用のSVC-16と、三方から画面を覗き込めるように22インチのディスプレイを水平に配置した海図台型のMHC-22があり[4]、いずれも固有のプロセッサ(NDC-160またはCDG-3032)および64キロワードのメモリを搭載している[1]。また後期型(輸出版ではIPN-20)では、コンソールのプロセッサをNDC-160/E(CP-7020)に強化して、分散コンピューティングを推進した[1][4]。
ルポ級・マエストラーレ級フリゲートに搭載されたSADOC 2では、CDG-3032コンピュータ2基とSVCコンソール4基、MHCコンソール2基が用いられた[4]。一方、イタリア国外向けのルポ級で搭載されたIPN-10では、CDG-3032コンピュータ1基とSVCコンソール4基、MHCコンソール1基が用いられた[4]。両者の機能差から、SADOC 2のCDG-3032コンピュータのうち1基がリンク 11を担っているものと考えられている[4][注 1]。これらの水上戦闘艦では、武器管制機能についてはNA-10射撃指揮装置が担っている[4]。
「ジュゼッペ・ガリバルディ」に搭載されたSADOC 2では、分散コンピューティング化を推進するとともに、CDG-3032コンピュータのうち1基を武器管制機能に割り当てた[4]。同艦のシステムではMHCコンソール2基とSVCコンソールを9基備えるほか、NATO防空管制組織(NADGE)との情報共有のため、リンク 1にも連接可能とされた[1]。
一方、フィンカンティエリ550型コルベットに搭載されたダウンサイジング版では、NDC-160コンピュータとMHCコンソール、SVCコンソール各1基の構成とされた[4]。イタリア海軍のミネルヴァ級コルベットで搭載されたモデルはミニSADOCと称されている[1]。
運用者と搭載艦
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イタリア海軍 - SADOC 2(ミネルヴァ級のみミニSADOC)
インド海軍 - IPN-10[1]
- ラージプート級駆逐艦 - IPN-10(ミニSADOC相当)[4]
- デリー級駆逐艦 - IPN-10}[4]
- ゴーダーヴァリ級フリゲート - IPN-10[4]
- ブラマプトラ級フリゲート - IPN-10[5]
- ヴィール級コルベット - IPN-10(ミニSADOC相当)[4]
- ククリ級コルベット - IPN-10(ミニSADOC相当)[4]
エクアドル海軍 - IPN-10[4]
スペイン海軍 - IPN-10[1]
ベネズエラ海軍 - IPN-10[1]
ペルー海軍 - IPN-10[1]
マレーシア海軍 - IPN-10
SADOC 3
[編集]1984年より、IPNシリーズの次世代機として開発されたのがIPN-Sであり、イタリア海軍仕様はSADOC 3と称される[1][4]。
同システムは、ATHENA(Architecture & Technologies Handling Electronic Naval Applications)コンセプトの初適用例であり[6]、MARA(Modular Architecture for Real-time Applications)コンピュータおよびMAGICS(Modular Architecture for Graphics and Imaging Control System)ワークステーションを基盤とした、完全分散型のシステムとなる[1]。
MARAはマルチプロセッサコンピュータシステムであり、プロセッサとしては当初はIntel 80286が用いられ、後にはIntel 80386、Intel486へと更新されていった[1][4]。それぞれのコンピュータは複数のプロセッサボードで構成することができる[1]。各処理モジュールは64MBのローカル専用メモリを持ち、モジュール間では全モジュールに共通する64MBの共有メモリを備えている[1]。各プロセッサモジュールは25MHzのクロックと32KBのメモリを搭載しており、ベンチマークでは5MIPS以上の性能を発揮する[1]。一方、MAGICSワークステーションには3枚のIntel 80386プロセッサボードで構成されるMARAノードが搭載されており、1,024ライン×1,280ピクセルのディスプレイを備える[1]。アプリケーションソフトウェアのプログラミング言語にはAdaが使用される[1]。
運用者と搭載艦
[編集]SADOC 4
[編集]ATHENAコンセプトに基づく次世代システムとして開発されたのがSADOC 4であり[7][6]、ATHENA Mk.2とも称される[8]。
オープン化・分散システム化を更に推進し、スケーラビリティに優れたシステムとされており[6]、哨戒艦艇からフリゲート、支援艦艇や航空母艦に至るまで、あらゆる種類の軍艦に対応可能とされる[8]。インターフェースとしては、スマートフォンに近い操作性を備えた43インチUHDマルチタッチ型コンソールが導入されたほか、指揮統制用には、NTT(Naval Tactical Table)やMWWS(Mission Wide Wall Screen)といった更に大型の端末・ディスプレイも用いられる[8]。
運用者と搭載艦
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa Hooton 1999.
- ^ Gardiner 1996, p. 199.
- ^ Gardiner 1996, p. 207.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa Friedman 1997, pp. 87–89.
- ^ Wertheim 2013, p. 279.
- ^ a b c “LEONARDO “ATHENA” COMBAT MANAGEMENT SYSTEM o (per la M.M. italiana) SADOC Mk.4” (イタリア語). SI VIS PACEM, PARA BELLUM (2019年11月18日). 2026年3月29日閲覧。
- ^ a b c d e f 多田 2022, p. 229.
- ^ a b c Peruzzi 2023.
参考文献
[編集]- 多田智彦「現代の艦載兵器」『世界の艦船』第986号、海人社、2022年12月。CRID 1520012777807199616。
- Dura, Maksymilian (2021-03-15), Italian commitment on the "Miecznik” program
- Friedman, Norman (1997), The Naval Institute Guide to World Naval Weapon Systems 1997-1998, Naval Institute Press, ISBN 978-1557502681
- Gardiner, Robert (1996), Conway's All the World's Fighting Ships 1947-1995, Naval Institute Press, ISBN 978-1557501325
- Hooton, E.R. (1999), “COMMAND, SURVEILLANCE AND WEAPON CONTROL SYSTEMS, ITALY”, Jane's Naval Weapon Systems (Issue 28 ed.), Jane's Information Group Ltd, NCID AA11235770
- Peruzzi, Luca (2023-06-30), “Horizon MLU: Bridge, Combat system and Inner-Layer Defence upgrade”, EDR online
- Wertheim, Eric (2013), The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World (16th ed.), Naval Institute Press, ISBN 978-1591149545